聞いていてうんざりしてくるのが「価格を下げないと売れません」と言う営業の言葉。何故売れないのか理由を聞けば「競合はもっとやすい」「ライバルは値下げしています」と言い始める。
もっとひどいと、「この商品は高い」と営業が価格に口を出すことも。それも「その価格で売れている商品」を高いと言いだす始末。
何と比べて高いのかを聞けば、その営業の感覚で高いと言うから手に負えない。はっきり言って営業が価格を決めると、出るはずの利益が出なくなることさえあります。
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商社が変わったら値段を大幅にあげても売れた
一時売っても売っても赤字になる商品があって、困ったことがあります。一番最初に仕入れた時の価格が異常に安かったんですよ。まぁその仕入れ先からずっと仕入れていれば何の問題もない話なんですが。
あるとき似た形の別の商品を仕入れようとした時、その会社では作れないと言われました。仕方がなく別の取引先を探したんですが、似ていても異なる商品なので、仕入れ価格が倍近くまで上がってしまいました。
当然売値もあげるべきなんですが、あろうことかその営業は、何故高くなったのかが説明できず、安い価格のまま販売し続けたんです。
当然赤字ですよ。それもびっくりするくらいの。しかも何度注意しても「どうにもできない」の一点張り。
この時の取引は仕入れ先からぼくの勤め先が仕入れ、それを商社に販売して、商社がエンドユーザーに販売していました。(下に図があります)
ある日、別の商社がその赤字になっている問題の商品を受注しました。もちろんエンドユーザーは同じ会社です。そして別の営業のところに見積り依頼が飛んできたんです。
これは赤字を解消するチャンス!
とばかりに、従来販売していた価格を3倍にして、見積りを提出しました。もちろん3倍でも売れると言う核心を持っていたから高くしたんです。
当然、今までの商社は3分の1の価格で仕入れて売っていた訳ですから、エンドユーザーからすればかなりの値上げになりますよね。普通に考えて売れるわけがありません。
でも、売れました。それどころか「今までより安い」とまで言われました。
信じられますか? 価格を3倍にしたのに「安い」って言われたんですよ。
(分かりにくいので絵にしました。分かるかな?)
一体営業の言う「どうにもできない」って何だったのか。結局商社Aに説明することも交渉することも出来ず、ただ言いなりになって赤字を量産していただけだったんです。
ごめんなさい1つだけ嘘をついています。
実は3倍で売れたと言うのは嘘です。
本当は、営業Aが15000円で売っていたものを110000円で売りました。
おれすごいだろ!?
と、言いたいわけじゃ無く。いえ少しは言いたいですが、そうではなくて。
言いたいのは、商品の価格を決めるのは、営業じゃないってことです。
そして、周りから見て高いと思う値段でも、欲しい人にとっては安いことって沢山あります。もうひとつ言えば、必要のないものは1円でも高いんですよ。
自分の感覚で高い安いを決める営業はセンスがない
最終的に価格を決めるのは、購入するお客様です。そして、たとえものすごく高く感じたとしても、買う人がいる限りそれは適正価格なんです。
先ほどの話でいえば、営業Aが15000円で販売していた商品を作れるのは、世界広しといえどもその仕入れ先を含めて3社しかありませんでした。
その上、その商品がないと他の部品も役に立たなくなるほど、重要な商品だったんです。
つまり、商社Aはもっと高値で売っていたってことです。
余談ですが、商社Bの売値は商社Aより5%ほど安かったようです。商社Bも商売ですから、今いくらで買っているのか情報を持っていましたし、その情報もざっくりとですが、流れてきていました。
だから110000円なんてふざけた値段でも売れたんですね。
あの商品に似ているから高い」とか、「丸が1個増えたから高い」とか、比べる対象を間違えていたり、自分の感覚に頼って情報を集められない営業は、営業Aのように、よく売値を間違えます。
その商品はどこに持っていけば一番高く売れるのか。それを考えるのも営業の仕事ですから。
例えば、良くあるたとえ話ですが、コップ1杯の水を売ろうとした時。日本で売ろうとしても買ってくれる人はまず居ないでしょう。公園に行けば無料で手に入りますから。
でも、水も何もない砂漠のど真ん中で、のどがカラカラに乾いた人なら、100万円でも買うはずです。
売れる場所に行けば高値でも売れると言う事。そして売れる場所を見つけられるかどうかは、常日頃の情報収集にかかっています。
困っていることを解決できれば高くても売れる
一番はこれですね。困っていることを解決してあげれば、高くても買ってくれます。今より「楽」できることを売るのもありです。
今までより安くなる。と言うのも魅力的ですよね。開発をしているなら、もっと早く開発できるようになる。とかです。
ただ、高値で売れる理由をきちんと理解せずに、「高いから安くしろ」と言う営業の多いこと多い事。安くしないと売れないって言うのは営業の勘違いですから。
月並みな言い方ですが、必要としている人に必要なものを売る。これが一番簡単です。
トイレに入ったけど紙がなくて困っている人なら、トイレットペーパーが売れますよね。お腹が痛いなら、ついでに胃腸薬も売れるかもしれません。薬を飲むために水もセットで売ったらどうでしょう。
もちろん、似たような商品がいくつも並んでいて、自分で選べる状況だと高く売ることは出来ません。逆を言えば、それしか選べない状況なら、高く売れるんです。
もっと言えばお客様はたとえ安いと思っていても、必ず「高い」と言います。何故なら、もっと安く買えるなら安く買いたいからです。
価格を決めるのは営業の感覚じゃない
普通に生活していても、毎日色々な品物を目にします。コンビニに行っても本当に沢山の商品がありますし、ホームセンターやデパートならもっと沢山の商品があります。
長年の経験から、「この商品ならこのくらいの価値」と言う価値観を、人それぞれもっているものです。
でも、その経験や価値観は主体的な感覚です。お店で良く見る商品なら、何となく価値が分かるかもしれませんが、お店で販売されていない商品だと、市場での価値がどのくらいか分かる人はほとんどいません。
だから、調査するんです。
見た目、大きさ、色、触り心地、使い道。どこか似た商品がすでに売られていないかを調べます。
その商品がどうやって作られているのか、誰が使っているのか、何個必要なのかを調べるんです。
時には価格を比較する対象が、その商品を作っている機械になることもあります。試作をするときは、金型が比較対象と言うことも良くあります。
5万円の試作品Xを作るために4000万円の金型を作ることも実際にあります。
そこに金型を作らなくても1個500万円で作れます。と話を持っていけば、2・3こしか必要としていない人には売れますよね。大幅なコストダウンが出来ますから。
こういう価格に関する情報はお客様のところに通わないと集まりません。そして、情報を持っていないと、とんでもない安値で売ることになってしまいます。
試作品Xも必要な数と製作方法を見ずに、商品の単価だけを見れば5万円と500万円ですから、とても売れるとは思えないでしょう。
すると最初に紹介した営業Aのように、11万円で売れるものを1万5千円で売るようなことになります。
価格を決めるのは感覚じゃありません。ちゃんと裏付けをとってから決めるものです。
値下げは最終手段! 利益を減らさずに売る方法を考えよう
「他社は〇〇円で販売しています。当社も値下げをしないと売れません。」
「この商品は大手で〇〇円です。それ以下にしないと売れません。」
こう言った言葉を平気で口にする営業は、総じて仕事ができないと断言できます。
商品の値下げは、口が悪いかもしれませんが馬鹿でもチョンでも出来るのです。
また、価格でしか差別化できない営業では、将来に「倒産」の二文字しか見えません。
地方では、近くに大手量販店が出店してもつぶれずに営業を続けているお店があります。
メーカーと競合しているのに、頑張って利益を上げている中小企業もあります。
要は考え方なのです。
価格で勝てないのなら、別の部分で勝つことを考える。
その商品がダメなら、別の商品を考えればいいのです。
価格競争に自ら入っていって、利益を減らす必要はありません。
最後に
何故こんな記事を書いたかと言うと、実際にやたら値下げする営業がいて、うんざりしていたからです。
30万円で売れている物を5万円で売ろうとする。これ、営業妨害ですよ。同じ会社で営業妨害というのもおかしな話ですが。
何度も言ったように、必要としている人になら適正な価格で売れるんです。そして売れている以上値下げをする必要はありません。
なんで5万なのか聞くと、高いからだと言う。何と比較して高いのかを聞くと、全然別の商品を例に出してくる。そして「この時は5万円だった」と言う。
営業が追いかけるのは売上じゃなくて利益です。安く仕入れて高く売るのが基本。その為に得意先を回ったり、仕入れ先を回ったり。展示会に行ったりして情報を集めるんです。
安く売ろうとすればするほど、価格競争に巻き込まれていきます。価格競争に巻き込まれると、そこは弱肉強食の世界です。体力のある企業だけが生き残る世界なんですよ。
中小企業は価格競争に巻き込まれたら生き残れません。誰も来ないような場所でひっそりと、高利益の商品を売るから生き残れるんです。
商品を1円でも安く作るのも企業努力ですが、1円でも高く売るのは営業の努力です。売れないから値段を下げる、そんな売り方ならバカでもちょんでもできるんですから。