正社員は法律用語ではありませんので決まった定義はありませんが、一般的に企業が定める所定時間労働をして、雇用期間の定めがない労働者のこと指しています。
時代の流れでアルバイトやパート、派遣社員などの非正規雇用で雇われた非正社員と区別するために「正社員」と呼ばれるようになったはずです。
「正社員」のイメージとしては雇用が「安定」していることや、給与が非正規雇用と比べて高いことがあげられます。ただ最近は正社員でも雇用が不安定になりつつありますし、決して給与が高いとも言えなくなってきています。
昔と今では同じように「正社員」と呼ばれても、その待遇や立場は大きく変わってきている、そんな気がしているのです。
この記事では、「正社員とは何か」を自分なりに考えてみます。
正社員だから得られた待遇
昔の正社員には「終身雇用」「年功序列」「高給」と言った特権がありました。一度会社に採用されればよほどの事情がない限りは定年まで勤め上げる。年齢を重ねることで給与も役職も自然と上がっていく。特権と言ったら怒られるかもしれませんが、当時は業務遂行能力よりも勤続年数が評価されたのです。
だからこそ「良い大学に行き、良い会社に入れ」が成り立っていたんですよね。良い企業に入社出来ればあとは安泰。定年まで会社が面倒を見てくれるのですからこれほど素晴らしい待遇はないでしょう。
好待遇の代わりに求められたもの
と言っても、正社員には好待遇の代わりに求められたものがあります。それは様々な義務として就業規則などに書かれていました。
例えば、残業命令や転勤命令にはやむを得ない事情がない限り従わないといけません。拒否した場合は懲戒処分の対象にもなりますよね。退職後3年はライバル企業に就職してはいけないと言う義務もあります。
会社に勤めている間だけではなく退職した後まで「義務」を負わないといけない。正社員として働くと言うことは、会社に対して義務を負うこととも言えたのです。
非正規との「差」としても「義務」が存在した
少し前までは正社員と非正規社員との給与の差を説明するのに「義務」が用いられていました。非正規社員とは追っている「義務」が違う、だから同じ仕事をしていても給与に差があるんだと言われていたのです。
これは会社側にとってすごく都合の良い説明だったことでしょう。
正社員は非正規社員と違う「義務」を負っているから給与が高いんだ。だから「残業」して当たり前、「転勤」も当たり前。その「義務」に対して給与を支払っているのだから。とね。
同じ正社員であっても転勤があるかないかで給与に差がつけられていることを考えても、「転勤」は高給に対する「義務」として受け取ることが出来ます。
余談ですが、今言われている「同一労働同一賃金」が100%実行されれば非正規社員と正社員の間に給与の差が無くなります。そうなると一番困るのは会社側です。
今までは「残業」や「転勤」を義務として社員に課していたものが出来なくなる。「給与が同じなら転勤はしたくない」と考える人が多いはずです。
勝手な想像ですが、そんな理由もあって「同一労働同一賃金」の指標は正社員と非正規社員が同一賃金になりにくいように出来ているようにも感じられます。
採用されてから仕事が決まる
日本では採用された労働者がどんな仕事をするのかを会社が決めますよね。多くの場合は採用された後に仕事が決まることがほとんどです。だから、経理を希望して入社しても会社の都合で営業部に配属されることもありますし、途中で違う部署に異動することもあります。中途採用でも変わりません。
このやり方だと希望の職種に就ける可能性は下がりますが、一つの職種でダメだと判断されても別の部署に異動させることが出来るので、雇用は安定しやすいんですよね。
ある意味「異動」を受け入れることも会社で働き続けるための「義務」だと言えます。
会社に「拘束」される代わりに「厚待遇」があった正社員
今まで書いてきたことをまとめると、正社員とは「終身雇用」「年功序列」「高給」と言った待遇の代わりに会社から「義務で拘束」されているもの、とも言えますよね。
残業や休日出勤と言った業務命令には原則従わないといけませんし、転勤命令もやむを得ない理由が無ければ拒否することが出来ません。その結果家族と離れ単身赴任することになったとしても、「義務」として従わざるを得ないのです。
それでも「高給」や「終身雇用」が約束されていれば生活が安定しますから、正社員は「義務」として従ってきたのでしょう。
ですが最近の正社員を見ていると「義務」だけが残り「厚待遇」は無くなりつつある気がしています。
「拘束」だけが残った正社員
もともとの正社員は「終身雇用」や「年功序列」「高給」と言った厚待遇があり、会社から「拘束」されていました。
ところが今は、見返りとなる「厚待遇」が無いのに会社から「拘束」される正社員が増えています。残業をしても残業代が付かない、休みたくても休めない、辞めたくても辞めさせてもらえない。いわゆるブラック企業です。
「正社員は会社に拘束されるもの」と言う会社側に都合の良い部分だけを残し「厚待遇」が消えて行ったのです。そして「社員なんだから」と言う魔法の一言でいいように働かされている正社員が増えているように思えます。
パート・アルバイトだけで営業する店
さらにリーマンショック以降正社員を減らし非正規社員を増やす動きが活発になりました。外食産業や小売店では店長だけが社員であとは非正規社員と言うところもあります。中には店長も非正規社員と言うところまであるのです。
非正規社員だけになると人件費の抑制が容易になります。比較対象となる正社員がいませんから、今の待遇で十分だと考えてしまいますし、期間の定めがある雇用形態なので景気が悪くなれば契約を切ることも出来ます。しかも、非正規社員とは言え仕事に対する責任感はとても高く、正社員並みに働いてくれる方が大勢いると言うのも都合がいい。正社員がいなくても十分営業していけるのも、能力の高い非正規社員が多いと言う事実があるからでしょう。
ただ、弊害としてブラックバイトに代表されるような無茶な働き方をさせるところもあるようですし、本部と店とをつなぐ正社員がいなくなることで、現場の実態が把握できなくなっていることもあるようです。
正社員=安定は過去の話
非正規社員だけで営業出来るとなれば正社員は必要ありません。むしろ正社員を解雇して非正規社員で再雇用したほうが人件費は安く済みます。
それでも正社員が無くならないのは、非正規社員は「転勤」させることが難しいからです。つまり、これからの正社員は「転勤」出来る人だけになる可能性があり、転勤を受け入れられない人は解雇され非正規として働かざるを得なくなるかもしれません。
正社員が安定した働き方だったのは過去の話になりつつあるのです。
正社員とは何か
終身雇用も無くなり厚待遇も一部の企業を除いては無くなりつつあります。それでも「退職後3年はライバル企業への就職禁止」「残業や転勤と言った業務命令にやむを得ない理由なく従わない場合は懲戒処分」と言う義務は残っています。
つまり正社員とは会社に所属することで「義務」だけを負った存在なのかもしれません。もちろん正社員として働く人たちが望んだわけではなく、時代の流れとして「義務」だけが残ったとも言えます。
今後の正社員を考えたときに、怖いと感じるのは「残業代ゼロ法案」や「解雇の金銭解決」です。解釈の仕方次第では「労働時間を無くした解雇しやすい正社員」を目指しているのではないかと考えることも出来ます。もし、そうだとすると、正社員は非正規社員と何も変わらなくなっていきますよね。
この先の正社員を考えると、非常に危うい存在だとも言えるかもしれません。
自分の身は自分で守るしかない
今はまだ「正社員=安定」が成り立っている会社もありますが、正社員でも安定した生活からはどんどん遠ざかっているのは事実です。
また、正社員として働いていると同調圧力に負け会社に尽くすことが当たり前になっていき、「会社が守ってくれる」「自分だけは大丈夫」と言う考え方に染まりやすくなります。
昔は体力のある会社が多かったので従業員を守ってくれたかもしれませんが、今は経済の移り変わりが激しく、会社も従業員を守っている余裕があるとは思えません。つまり会社は会社、自分は自分。「会社が守ってくれる」はずはなく、「自分だけは大丈夫」は勘違いでしかないのです。
結局、自分の身は自分で守るしかありません。
経済の動向を見るように転職市場の動向もチェックし、市場が求める人材を把握しスキルや経験を身に着けながら、何があっても慌てずに対処できるよう準備しておくことが大切ではないでしょうか。
結論
色々書いてきましたが「正社員とは何か」と考えた結論。
正社員とは非常に危うい存在。
「会社が守ってくれる」「自分だけは大丈夫」だと考えていると、突然どん底に落とされる可能性が高い。