数年前に一度話題になり、「新たなリストラ策だ」との批判を浴びて消えた雇用体系「PEO」
アメリカで爆発的に普及した雇用体系ですが、日本で普及させるには法律の面から見てもいろいろと問題があります。
ですがうまく運営できれば、雇用の安定という意味で可能性があるのは事実です。
最近は派遣社員の新しい働き方として、「無期雇用派遣」を推進する派遣会社が増えてきています。
実はこの「無期雇用派遣」こそ、PEOに近い働き方だと言えるのです。
この記事では、日本版PEOと無期雇用派遣について書いています。
PEOとは
PEOとは日本語で「習熟作業者派遣組織」と言われ、アメリカなどで用いられているアウトソーシングの新しい形態です。
簡単に説明すると、A社で働いている100名の社員がいたとします。
A社がPEOを導入すると、100名の社員はA社を退職してPEO社の社員となります。
ですが100名の社員はA社でそのまま働き続けます。
つまりA社とPEO社は100名の社員の「共同雇用主」になるのです。
PEOのメリット
PEOは1社に対して行うことはなく、複数の会社を対象として行います。
複数の会社を対象とすることで、雇用の需要に合わせて登録している従業員を移動させることが出来ます。
その結果次の3つのメリットが生まれます。
- 登録企業の人件費抑制
- 登録社員の雇用の安定
- PEO社の利益確保
まさに三方よしの仕組みです。
日本でPEOの実施が難しい理由
雇用の安定という意味では良い面の多いPEOですが、日本は共同雇用が法律で認められていないため、そのまま実施することができません。
また「新たなリストラ策だ」との批判を浴びたように、一度社員を退職させて別の会社へ移動させることに、不安を感じる方もいます。
さらに「給与」の問題があります。
間にPEO社が入る以上「派遣料」が発生します。
また社員としても、従来の待遇が維持されなければPEO社に移動したいとは思わないでしょう。
するとA社は必然的に、人件費が増えることになります。
こういった理由からPEOを実施するのはかなりハードルが高いのです。
無期雇用派遣を使った日本版PEO
日本版PEOと呼べる仕組みが、2015年9月30日の労働者派遣法改正で生まれた無期雇用派遣です。
無期雇用派遣は常用型派遣の中に含まれていますので、まずは常用型派遣について説明します。
常用型派遣の特徴は次の3つ。
- 派遣会社と雇用契約を結ぶ
- 派遣会社での勤務・待機がある
- 派遣先がなくても給与が出る
常用型派遣は派遣会社と直接雇用契約を結ぶことで、派遣先がなくても給与が支払われます。
そのため登録型派遣よりも安定していると言えるでしょう。
ただし雇用契約は有期契約と無期契約があり、有期契約の場合は契約が更新されないリスクがあります。
一方無期雇用契約の場合は契約が切れるリスクも無くなり、より雇用が安定すると言えます。
この常用型派遣の無期雇用契約のことを「無期雇用派遣」と呼び、日本版PEOの中心となる雇用体系になっています。
「無期雇用派遣」もう一つの意味
個人的に「無期雇用派遣」は表現がまぎらわしいと考えています。
先ほども書いたように、日本版PEOの中心は常用派遣で無期雇用契約を結ぶことです。
それを「無期雇用派遣」と呼んでいるのですが、無期雇用派遣には本来別の意味合いがあります。
◇無期雇用派遣とは
同じ派遣元との契約が複数回更新され、平成25年4月1日以降に開始した契約期間が通算5年を超過した場合、派遣社員が希望すれば、期間の定めのない労働契約に転換することができます。こうして、期間の定めのない契約へ転換した派遣のことを「無期雇用派遣」といいます。
無期雇用派遣になるには、同じ派遣元との契約期間が5年を超過する必要があります。
常用派遣で無期雇用契約を結んでも「無期雇用派遣」と呼ばれるので、ややこしいですよね。
また無期雇用派遣を募集する求人では、「正社員(無期雇用派遣)」と書かれていることもあり、これも勘違いを引き起こす原因になる可能性があります。
無期雇用派遣のメリットとデメリット
雇用が安定するという意味ではメリットの多い印象を受ける無期雇用派遣ですが、当然デメリットもあります。
メリット
まずメリットから見ていきます。
- 派遣会社と期間を定めない雇用契約が結べる
- 時給ではなく月給制になる
- 派遣先との契約が終了しても給与が途切れない
- 未経験かの求人が多い
- 昇給・昇進・福利厚生・ボーナスなどがある
- 待遇が社員並みになるところも多い
派遣会社と無期雇用契約を結ぶことで、福利厚生も充実し雇用が安定することがメリットだと言えます。
デメリット
次にデメリットです。
- 正社員より給与が低いケースがある
- 派遣先が頻繁に変わることがある
- 派遣先を選べない
- 次の派遣先が見つからないと休職扱いになることがある
あくまでも「派遣社員」として扱われるため、正社員と比べると給与が低くなることもあります。
また人材需要の多い企業に派遣されるため、派遣先が頻繁に変わることもあるでしょう。
さらに登録型派遣と違い、派遣先を自分で選ぶことができません。
次の派遣先がない場合には、休職扱いとなり給与額が低くなることも予想されます。
では無期雇用派遣は、日本版PEOになりうるのでしょうか?
㈱PEOが推進する日本版PEOとは
日本版PEOを推進している企業に㈱PEOがあります。
ホームページを見ても肝心なところが伏せられているため詳細は分かりません。
ですが求人を見る限りでは、「無期雇用派遣」で日本版PEOを推進していると考えられます。
㈱PEO日本版PEOの特徴
㈱PEO日本版PEOの特徴は、派遣先を会員制としている所です。
仮に半導体企業のみでPEOを実施した場合、半導体の業績が下がればPEOに登録している従業員は職場を失うことになります。
㈱PEOで無期雇用契約を結んでいるとはいえ、給与を保証することは難しいでしょう。
この問題を解決するために、半導体・自動車・電機と言った業界を横断したPEOの仕組みを構築しようとしています。
つまり業種を横断した、PEOを構築することでより雇用の安定を実現させ、企業のニーズに応える仕組みが構築できます。
問題点としては、どの程度の企業が参加してくれるか、ということでしょう。
可能性はあるが難しい日本版PEO
日本版PEOは雇用のセーフティーネットとして機能する可能性を秘めています。
多くの派遣会社が無期雇用派遣を広く募集していることでも、可能性がある労働体形だということがわかります。
ですがいくつか難しい点もあります。
まずアメリカのPEOでは、経営に関わる人員を除いて全員がPEO社の社員になります。
つまり一緒に働いている人が全てPEO社の社員。なので待遇なども差がありません。
ですが日本版PEOの体系はあくまでも派遣社員、もともといた社員と一緒に派遣社員が働くという点では従来と変わりがありません。
ここに働きにくさが生まれます。
派遣されているとは言え㈱PEOの正社員ですから、派遣先の社員と「差があることを快く思わない」方も当然いるでしょう。
PEOの仕組みを日本に定着させるには、まだまだ時間がかかるはずです。
最後に
日本は共同雇用主を認めていませんし、「離職後1年以内の、同じ会社への派遣禁止」という決まりもあります。
つまり社員や派遣社員をPEO社に切替えること自体ハードルが高いのです。
ですが急なリストラで職を失ったり、契約解除で無職になったりすることが減るという意味では、雇用のセーフティーネットになる可能性を秘めています。
日本版PEOは課題も多いですが、非常に可能性のある仕組みではないでしょうか。