この失敗談は、私が20代の頃に製缶の仕事をしていた時の出来事です。
製缶とはその名の通り缶の製造で、塗料・お菓子・薬などを入れる缶を製造していました。
製缶時の注意点はたくさんありますが、缶の内容物が漏れることは絶対に避けなければいけません。
内容物が漏れるということは、例えばエンジンオイルやペンキを缶に流し込んだ時に外へ出てきてしまうということです。
これでは製品として全く売り物になりませんし、当然不良品の缶です。
内容物が漏れると大クレームは避けられませんし、最悪会社同士の付き合いが終わるかもしれません。
結論から書きますと、私の失敗は内容物が漏れる可能性のある缶を何千個も作ってしまったことです。
私は生産管理のような仕事をしていまして、缶の様々な数値を測定したり内圧を加えて漏れがないか確認する義務があります。
量産体制に入る前はもちろん、途中で何回も缶を抜き打ちで検査するのです。
缶を製造するのは所詮機械なので、いつどこでトラブルが発生するか分かりません。
信じられないことに、私は慢心から途中の抜き打ち検査を怠ってしまったのです。
恐らく大丈夫だろうという気持ちで過ごしていましたが、製造の終わりがけに何気なく内圧をチェックしたら缶に隙間がありました。
つまり、内容物を入れたら漏れる缶ということです。その瞬間、私の血の気が引いたのは言うまでもありません。
直ちに製造のストップをライン担当者に申し入れて、事情を説明しました。
叱責をされましたが、缶の納期があるのですぐに現状を打破するしかありません。
ラインを調べると、缶に隙間ができたのは金属を折り曲げる機械のネジの緩みが原因でした。
金属を折り曲げるのは機械にとっても負担が大きいので、少しずつ緩んでしまったのだと推測します。
故に、途中までは問題のない缶でしたが、ある時から全て不良品の缶と化したのです。
どの段階で機械が緩んだのか、缶の目視だけでは分からないので一つずつ内圧を検査することになりました。
何千という缶を一つずつ検査するのは大変な苦労ですし、既に梱包してある缶も全てテープをほどいて検査です。
お客さんの元に納品する前に気付いたのは不幸中の幸いですが、私が気を付けていれば発生しない作業でした。
缶の製造は量産体制になると一時間に千個ぐらい作れるので、一応納期には間に合いました。
ただ、人件費もそうですし、缶の材料費など多くのマイナスを作ったのです。
結果的に、私はクビにはなりませんでしたが、同僚からの信頼は地に落ちてしまい退職せざるを得ない状況になりました。
社長は仕事で挽回すれば良いというスタンスでしたが、一緒に働くメンバーからの冷たい視線には耐えきれません。
私も全品検査をしている途中に強い精神的ショックを受けてしまい、退職の決断は全く迷いませんでした。
この大きなミスで思うのは、やはり慢心は駄目だということです。
気の緩みは多くの隙を生みますし、取り返しのつかない事態を招きます。
ただ、このミスによって命が奪われる訳ではないのでプラスに捉えるしかありません。
私は仕事の時だけでなく、車の運転など生活のあらゆるシーンで慢心という二文字は消えました。