二十五歳の男です。
パチンコ店で働いているときに、25年間の人生で一番怒られた失敗をしました。
そもそも私は地元を離れて東京で働くつもりだったのです。
ところがことごとく就職活動に失敗し、仕方なく地元にある寂れたパチンコ店で働くことになりました。
そのため完全に不貞腐れていて、やる気などほとんどありませんでした。
そんな状態で仕事に取り組んでいたものですから、失敗の連続です。
中でももっとも多くやった失敗が、お客さんが出したパチンコ玉(出玉)を、他のお客さんの出玉と混ぜ合わせてしまう、というものです。
パチンコ店で遊んだことのある人ならわかるでしょうが、出玉はその数に応じた景品と交換ができます。
ただし、景品と交換するには、出玉の数を数えなければいけません。
そこで店内には出玉を数える機械があちこちに設置されています。
私たち店員はお客さんに呼ばれるとすぐに駆けつけて、箱に入れられた出玉を回収し、その機械の中に入れます。
すると自動で数えることができ、出玉数が書かれたレシートが出てくるので、お客さんに渡すのです。
お客さんはレシートを持って、景品交換所に行き好きなものと交換するというシステムです。
とても単純な作業なのですが、それ故に慣れてしまうと作業を機械的に行ってしまいます。
常々気をつけるように言われているのですが、悪いことにその日は新台が入荷した日でした。
パチンコ店では新台が入ると、常連客には日ごろの感謝を込めて、新規のお客さんにはこれからも来店してもらうために釘を甘くしています。
つまりいつもよりたくさんパチンコ玉が出るようにしているわけです。
そして「新台が入荷した日は出やすい」という事実は、パチンコに詳しい方にとって常識。
ですから、他府県からも大勢のお客さんが押し寄せてきます。
そうなれば当然、私たち従業員はいつもよりも多く出玉の計測作業に追われます。
一人のお客さんに依頼されて出玉を運んでいると、その通りすがりに別の人から呼ばれるといった状態です。
この状態が勤務している間中ずっと続くのですから、ベテランの従業員でも軽いパニックになります。
さらに私たちにとって辛いのが、何人かのお客さんを待たせてしまうこと。
待っている人数が多くなると、次第に店内が殺気立ってくることです。
この日は新台が入荷したこともあり、いつもよりも忙しく働いていました。
勤務時間の後半になると、もう私は自分が何をやっているのかわからない状態になってしまうほどです。
そしてついに私は、あるお客さんの出玉を機械中に放置したまま、次のお客さんの出玉を入れてしまうという失敗を犯したのです。
そこで気がつけば良いものの、何も考えずに出玉の数が書かれたレシートを、後に計測したお客さんに渡してしまいました。
パチンコ慣れている人なら、自分の出玉のおおよその数がわかるため、受け取ったレシートの異変に気がつくはず。
ですが予想より多く出玉を受け取ったお客さんからすれば、わざわざ申し出る理由はありません。
私が失敗に気づいた時には、すでにお客さんは景品を交換した後。
しかもレシートを受け取れなかったお客さんは、カンカンに怒っています。
慌ててお客さんにどのくらいの出玉だったのかを訪ねるのですが、たいていは私の記憶よりも多い数を申告されます。
酷い人になると二、三倍の出玉を言われることも…。
ですが、嘘だと証明する手段がありませんし、失敗したのはこちらですから、言われたとおりにするしかありません。
つまり私のせいで、パチンコ店はかなりの損をすることになります。
たしかに失敗したのは私ですが、忙しさで疲れ切っているのに、お客さんから怒鳴られ、店長からも怒られ、しかもお店に損害を与えたとなると、「もう消えてしまいたい…。」と、思うものです。