あれは私が新卒で飲食店のホールスタッフとして働いている時でした。
仕事も覚え、周りを見る余裕が出てきた頃です。
私の仕事はホールでお客様のオーダーを取り料理を運ぶこと。
そしてドリンクなどの簡単なメニューを作り、お客様に提供することです。
私がいたお店は土日になると、団体や家族連れのお客様が多く来店されるため、オーダーが重なることが多々あります。
そのときも休日の忙しい時間帯でした。
私が担当する団体様の予約時間でしたが、どういうわけか到着されません。
なので、私は来店された家族連れを席に案内し、オーダーを2つほど受けてドリンクを作ろうとしていました。
その時です。
少し遅れて担当の団体様が到着しました。
家族連れのドリンクと団体様の案内、どちらを先にしようか迷ったのですが、団体様を店の前で立たせておくわけにもいきません。
なので、まず団体様を席にご案内しようと思ったのです。
ところが、席に案内した流れで団体の幹事さんから、「ビールは10杯、いや12杯。それにウーロン茶が3杯」など、多くのオーダーを受けることになったのです。
やっとの思いで団体様のオーダーを受けおわると、家族連れと団体様のドリンクを作るために中へ戻りました。
すると…。
あろうことか先に受けた家族連れの食事がもう運ばれています。
当然家族連れのお客様から「ドリンクが来ていない、どういうことか」と軽いクレームが…。
慌てて家族連れのドリンクを作り急いで席へ運ぶと、すでに団体様の料理が上がっているじゃありませんか。
ビールなどが席に届いていなければ、宴会も始められません。
ここで団体様からも「ドリングが来てない!」とクレームが入り、一人大慌てでドリンクを作っていました。
途中で異変に気が付いた店長に助けてもらいながら、なんとかドリンクを出し切ったあとは、「一体何をやっているんだ…。」と、落ち込んでいました。
そこで失敗が終われば良かったのですが、その時、もう一つの失敗に気づいたのです。
なんと家族連れの2組目のオーダーを厨房に伝えていなかったのです。
後から来店された団体様の料理は運ばれているのに、自分たちの料理がいつになっても出てこない。
となれば…当然家族連れのお客様はカンカンに怒ってしまいます。
そこからは、もう一組の家族連れからも「ここの店はどうなっているのか。従業員のしつけがなっていないのではないか。」と、店長と一緒にお叱りを受け、厨房からも「この忙しいのにいい加減にしてくれ」と叱られました。
この日だけで続けざまにいくつも大失敗をしてしまい、仕事に慣れたことで少しだけついた自信が、完全に崩れていました。
最初は「入り口で団体を待たせてはいけない」と思い、家族連れのドリンクを後回しにした結果がこの大失敗です。
店が落ち着く頃には「もう店辞めようかな」とまで考えていました。
店が終わり帰り支度をしていると、店長から「少し話があるから来て」と呼び出しを受けました。
大きな失敗をいくつもやってしまいましたから、完全に今日の失敗を怒られると思いました。
重い足取りで店長の部屋に入ると「今日は大変だったね」と店長は笑いながら話しかけてくれました。
店長は怒るわけではなく、何故失敗したのか、そしてどうすれば良かったのかアドバイスをしてくれたのです。
今日の失敗の原因は、団体様を優先したことではなく、一人で何件も並列して処理しようとしたことです。
オーダーをいくつも受けるのはいいけど、周りが忙しくても自分が処理できないのであれば手伝ってもらう。
忙しいのであればお客様に、「今混んでいるのでお待たせするかもしれません」と初めから伝えておく。
団体でも、「順番だから少々お待ちください」と一度断っても良いこと。
落ち込んでいる私を叱ることはなく、優しくアドバイスをしてくれた店長には、感謝しかありません。