
在庫を減らしたい。
これ、在庫を管理している人なら、だれもが思うことです。
なぜなら在庫が多いと管理が大変だから。
そうだな。
例えば鉄やステンレスなどを在庫している場合。
どれか1つに錆が発生すると、ほかの在庫にも錆が移っていきます。
しかも在庫が多いと錆に気が付きにくくなる。
結果として、不良在庫が増えるんです。
箱の中に腐ったミカンが1つあれば、ほかのミカンも腐るみたいな。
そんなイメージです。
つまり在庫が増えることで、管理にかかる費用が高くなるんですよね。
だから、在庫はできるだけ少なくしたい。
できるだけ減らしたい。
そう思うものなんです。
でも、減りません。
びっくりするくらい減りません。
なんで減らないのかっていうと…。
在庫って、見方を変えれば利益になるからです。
在庫を減らせと言いながら何もさせない上司
在庫削減で最も邪魔な存在が、中途半端に会計を知っている上司です。
中途半端に! っていうのがみそですね。
さっきも言いましたが、在庫って見方を変えると利益になるんですよ。
在庫が増えれば利益が増える。
在庫が減れば利益が減る。
この仕組みが、在庫削減をめちゃくちゃ邪魔するんです。
在庫が利益になる理由
なんで在庫が利益になるのか。
その仕組みを簡単に説明しますね。
まず利益は、売上から原価を引いたものです。
・利益(売上総利益)= 売上高 ― 売上原価
次に売上原価は、期首棚卸高に仕入れた標品の金額をたして、期末棚卸高を引いたもの。
・売上原価 = 期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
さて、ここからがポイント。
利益を増やすには、売上高を増やすか、売上原価を減らせばいいんです。
でね、売上原価を減らすには、期末商品棚卸高を増やせばいいんですよ。
つまり、期末商品棚卸高…つまり在庫を増やすと利益が増える。
これが、在庫が利益になる理由です。
利益を減らしたくない上司
ま、これも当たり前の話です。
上司としては利益を出してなんぼ、ですから。
売上を伸ばして利益を稼いで、会社に貢献しているってことを示さないといけません。
そんな上司に対して、「不良在庫を捨てたい」と言ってみてください。
たいていの場合は却下されます。
なぜか?
利益が減るからです。
自分の評価が悪くなるからです。
だから、廃棄などで在庫を減らすことを、上司は極端に嫌がる。
これがね。
在庫削減の邪魔をするんです。
錆ていても捨てられない
在庫を捨てると利益が減る。
こういう間違った理解をしていると、在庫を捨てることができません。
それが、明らかに不良品だとしても、です。
嫌がるんですよ。
在庫の廃棄を。
それが明らかに使えないとしても。
利益が減りますからね。
で、棚卸の結果が出るまで不良在庫を持ち続け。
売上や利益を見てから捨てるかどうかを判断する。
とはいうんですが、結果として捨てられない。
利益は多いほうが、評価が高くなりますから。
在庫を増やしたがる上司
先ほど在庫を増やせば利益が増える、という話をしました。
なので、中途半端に会計の知識を持っている上司は、在庫を増やしたがります。
というよりも、在庫を捨てないという行動が、結果として在庫を増やします。
これもね。
在庫削減の邪魔になるんです。
なんでも在庫にしたがる
例えば発注ミスで、無駄な在庫をとった場合。
しかもその在庫を使うことは、未来永劫なさそうな時。
この場合は廃棄するのが普通です。
でもね。
在庫=利益だと思っていると、在庫にしたくなるんです。
捨てるという選択肢がなくなってしまうんです。
取っておいても使わないのに、なかなか廃棄しようとしません。
ひたすら在庫が増えていく
不良在庫。
あるいは死蔵品を廃棄しないと、ひたすら在庫が増えてきます。
当然管理コストも増えるし、置き場も減るし、でいいことはないんですが…。
捨てようとはしません。
なぜなら、在庫が増えれば利益が増えるから。
在庫が減れば利益も減るから。
だから、捨てられない。
結果として、ひたすら在庫が増えることになります。
理解が中途半端すぎる
さて、在庫が増えると利益が増える。
在庫が減ると利益が減る。
という話をしました。
で、ここでの問題は、会計に対する理解が中途半端だということ。
確かに在庫が増えれば利益も増えます。
が、これは数字上だけの話。
ぶっちゃけ在庫だけ増やすことなんて、できないんです。
在庫だけ増やすことはできない
すごく当たり前のことを言いますね。
在庫を増やすには、買うか作るかしかないんです。
ほかの方法で在庫を増やすことなんて、できないんですよ。
なぜなら在庫は、その年に売れなかったあまりもの、だからです。
売るつもりで仕入れたけど売れなかった。
売るつもりで作ったけど売れなかった。
これが在庫です。
なので増やそうと思うと、商品なり材料なりを買うことになります。
次の計算式でいえば、当期商品仕入高と期末商品棚卸高が増えるわけです。
・売上原価 = 期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
これだと売上原価は変わりませんよね?
つまり何も買わずに、何も作らずに在庫だけを増やすことは、できないんです。
仕掛在庫ならできるけど…
ちなみに仕掛品なら、期末の在庫だけを増やすことができます。
というのも仕掛品には、材料費のほかに労務費や経費が加算されているからです。
そのため、仕入れを増やさずに期末在庫を増やすことができます。
そして計算上、利益も増えるんです。
なので、製造業で期末在庫を増やすためにたくさん在庫を作る。
ってことをやる会社はあります。
ただこれ、経営としては間違っているんですよね。
不正でも増やせるけど…
あとこれは、やっちゃいけないことですが。
不正でも増やせます。
例えば在庫Aの価格を、意図的に高くする、とかですね。
100円の在庫を120円にすれば、当然在庫が増える。
期末棚卸高だけ増えますから、利益も増えるわけです。
ただしこれは、完全にアウト。
やってはいけないことです。
現金が減る
期末在庫を増やして利益を増やす。
これをやると経営が悪化します。
なぜなら在庫を増やすには、お金を払って買うか余分に作るかしかないからです。
そしてこれをやると、当然ですが現金が減るか滞ります。
ちょっと説明が悪いかな。
そうだな。
ビジネスって、現金で商品を仕入れる。
仕入れた商品を売って現金に変える。
この流れが基本なんですよね。
現金→仕入→在庫→販売→現金→仕入→…
といった具合に、円のように回っています。
でね。
在庫を増やして利益を増やすってことは、商品を仕入れたことろで流れをとめる、ということ。
仕掛品を多めに作った場合も同じです。
仕入れた材料を使って仕掛品を作るわけですから、途中で流れが止まります。
するとどうなるか。
手元にある現金がどんどん減っていくんです。
中途半端な知識は邪魔
中途半端な知識は、はっきり言って邪魔です。
特に、管理権限を持っている上司が中途半端に知っていると、ものすごい弊害となります。
在庫が増えれば利益が増える。
在庫が減れば利益が減る。
これを中途半端に理解している人ほど邪魔なんです。
在庫に対する正しい知識はこれ。
無駄に在庫を増やせば現金が減る(コストが増える)。
無駄な在庫を減らせば現金が増る(コストが減る)。
つまり、利益で見ちゃダメなんです。
会計上の数字だけを追いかけちゃ、ダメなんですよ。
でも、中途半端な知識を持っていると、会計上の数字だけを良くしたくなるんです。
で、結果として在庫が増え続ける。
こうなると経営が怪しくなっていきます。
在庫は少なければ少ないほどいい。
本当は、在庫なんてなくていいんです。
発注単位とか納品までの期間とか、やむを得ない事情があるから在庫を持っているだけ。
これを理解しないと、在庫削減なんてできないんですよね。
中途半端な知識は邪魔なだけです。